鎌倉暮らしやイタリア生活で出会ったあれこれをお届けしているこのコラムですが、昔を振り返って、僕がアパレル業界に足を踏み入れてからイタリアに渡り、帰国して今に至る経緯についても少しずつお話ししていきたいと思います。

題して、「イタリアが僕にくれたもの」。

コラム内シリーズとして不定期にお届けしますので、時代の空気を感じ取っていただけたらうれしいです。
今回はその第2回です。

営業マンがデザイナーに転身したその訳は？

このコラムの第６回でファッション業界に足を踏み入れたお話をさせていただいてから、早半年。そろそろ、その続きをお話ししましょう。

「トゥモローランド」入社当初は「新人類」と呼ばれながらも、毎日ダンボールを作り、洋服の出荷と納品に明け暮れておりました。時代は80年代半ばバブル期です。先輩の出社前にオフィスとその周りを掃除し、終礼を終えて終電で帰るか、それから平日でも飲みに出て帰るかという、殺人的なスケジュールを過ごしていました。もちろん週末は販売応援です。

入社後半年が経ち、営業担当を任されました。自分の担当は北関東から長野、静岡、そして都下の取引先と、渋谷西武、丸井のフランチャイズ店でした。見よう見まねで、わからないなりにもがむしゃらに頑張っていたのを覚えています。

２年目の春、円形脱毛ができました。みるみるうちに数が増え、その当時は長髪だったのでどうにか隠しながら生活していました（今でこそ全体的にハゲていますが）。年末にはハゲの数も10個を数え、大きいものは手のひら大になっていました。

自分は一時的なものと気にしていなかったのですが、それを見た友人が心配してくれ、会社を辞めるべきだと言ってくれました。その時は終身雇用時代、転職で会社を辞める人が少なかった時代です。もちろん、会社に退職願など出せる勇気はありません。

事態を深刻だと思った友人は、長期休暇を進言してくれました。彼は翌年4月のバリ島旅行10日間の話を持ち出し、無理やりその料金を冬のボーナスで払わせられました。せめて休暇だけは取るべきだ、との強行手段です。

1月末、上司に4月１ヶ月の休暇をようやく切り出しました。
上司は自分では判断できないから、と社長決済になりました。

新人である私が、長期休暇なぞ申請したらクビになるだろうと思っていましたし、そうなりたいとも思っていました。今の若い方には不可思議でしょうが、そういう時代です。

翌日社長室に呼ばれました。社長室に入るのは新卒の面接以来でした。それくらい社長は殿上人でした。緊張しながら部屋に入ると、社長が開口一番「何か言いたいことがあるんだって？」と聞いてきました。円形脱毛治療のため１ヶ月休みたい旨を伝えると、即答で
「いいんじゃない。他には？」
これは意外でした。クビになるものと思っていたので、ある意味拍子抜けしました。他の質問は用意してなかったので、頭によぎったことを口走りました。「今の給料じゃ暮らせません。」
当時手取りで15万円程度だったと思います。社長は即座に「あ、そう。じゃあ上げとくから次の給料日に額面チェックしといて。他には？」

次々と回答されてしまう状況に戸惑うばかりです。勢いでもう一つ聞いてみました。暮れに支給された冬のボーナスについてです。同期入社の営業は全員同じ金額でした。自分の前年度の営業成績が運良く良かったので、その評価はボーナスに反映されないのか聞いたのです。24歳のひよっこが社長相手にこんな質問など、今考えたら恐ろしい話です。

そうすると社長は何かファイルを取り出し、ふむふむと頷いています。「自分は君に５万円余計に評価出しといたけど、副社長が他のメンバーと馴らしちゃったんだな、それぞれ色々あったしね」それを聞いて自分は「お金のことではなくて評価されているのかという疑問だったので、理解しました（多分こんな内容）」と伝え、真冬なのに汗だくになりながら社長室を後に後にしました。

〜次回へつづく

大学4年生の時。その当時通っていたブティックのクリスマスパーティーにて。フォーマルがドレスコードでした。 思えば今毎年12月に主催しているスノーボールはここに起因しているのかも。