Génération de roses

第5回 鎌倉山にひっそりと建つ一軒家でいただく、絶品チーズケーキ

蜂谷雅彦 カマクライフ

去年の台風上陸の日、友人3人が東京から来る予定になっていました。
その日の朝、連絡があったのでキャンセルだろうと思ったら、「チーズケーキ持って午後伺いますね」とのこと。
流石若者たちは違うな、と感心しながら彼らの到着を待っていました。
ずぶ濡れの彼らから頂いたのは少し大振りの濃厚なチーズケーキでした。

聞くところによると、なんでも、その鎌倉山にあるお店はなかなか予約が取れないらしく、この機会は逃せなかったということ。かなりの意気込みで向かったのがわかります。

鎌倉山は、同じ鎌倉でも私が住んでいる材木座とは駅を挟んで反対側、8kmほど離れていて、車で30分近くかかるところにあります。

自分は昔から食べ物のために並んだり、予約を取ったりができない性格なので、ただただ感心するばかりでした。

時は流れ、今年になって、某航空会社に勤めている別の友人が拙宅に遊びに来た時のことです。
「マサさん、ここ知ってますか?」と聞かれたそこは、また件の店。
「鎌倉出身の同僚に勧められたので、是非ここに行きたいんです」

(まただ…。)

友人は予約サイトとにらめっこし、空きが出たようで貸自転車を借りて飛び出していきました。

(かなり神話化してるな…。)

 

そんなことがあった数日後、仲良くしていただいている鎌倉在住の某作家が、こちらの店の頒布会を利用していて、届いたケーキをSNSで絶賛していました。

(かなり宗教化してるな…。)

 

そして数日前、ジムの帰りに藤沢で友人とランチをした後、途中でお茶して帰ろうということになりました。ちょうど鎌倉山を経由したので、その店の存在を思い出し、物見遊山で覗いてみることにしました。

マップアプリで細い道を入ってゆくと、モダンなデザインの小さなガラス張りの建物が丘の上に建っていました。お茶はできなくてもケーキでも買えれば買っていくか、とドアを開けると、数段降りた階段のフロアには窓に面してテーブルが二つだけしかありません。

(そりゃ、予約も取れないわけだ。)

階段横の大きな一枚板のカウンターにはホールケーキが何種類か一つずつ並べられています。

お店の方:ご予約いただいてますか?

私: いえ、近くを通ったので寄ってみました。ケーキは買えますか?

お店の方:はい、チーズケーキはご予約で完売となっていますが、他のものでしたら大丈夫です。ホールのみの販売となります。

(無理じゃん。。。。。金銭的にも、量的にも)

私: 流石ですね。素敵です。(潔さが)

お店の方:喫茶にキャンセルが出ましたので、1時間でしたらテーブルご用意できますよ。

(マジか! 皆、困難を極めて予約して来ているのに…)

私: それでは、お願いします。

という流れで千載一遇のチャンスをモノにしてしまった我々は、晴れた日の相模湾を一望する席に着きました。
他には誰もいません。友人のお宅にお邪魔したような気分です。

ふと気付くと無音でした。

実はこの環境が日本ではなかなか見つかりません。 必ず何かしらの音楽がかかっているのです。この店主はただモノではないことがすぐわかりました。
カウンターに置いてあるケーキもです。
ショーケースに蛍光灯が入るようなところにはないのです。

目が慣れて来て建築に目が及んでくると、それは子供の頃に見たサンダーバードの基地のよう(安っぽい表現ですみません)。 なんでも建築家の齋藤裕さんが手掛けたそう。葉っぱのようにして欲しいというオーナーの希望で出来上がった家らしいです。

素晴らしすぎる建築の中で、目の前に広がる山の緑と遠くにある海の景色を無音の中で楽しんでいると、程よいタイミングでチーズケーキと、チョコレートケーキが運ばれて来ました。 コーヒーは一杯無料でおかわりできました。

器が可愛らしいので、ついひっくり返してみると(一番下品な作法に違いない)クリスチャンディオールでした。

とんかつで満腹の腹におさめたチーズケーキとチョコレートケーキを、濃いめの珈琲で流し込み、異空間での至福の時間は終了しました。

生きている間にもう一軒、家を建てるとしたら彼にお願いしたいと、還暦すぎても新たな夢を見る早春の鎌倉の午後でした。

[店舗案内]
ハウス オブ フレーバーズ
〒248-0031 神奈川県鎌倉市鎌倉山3-2-10 TEL:0467-31-2636 FAX:0467-32-7601
営業時間 11:00-17:00 水曜定休  LO 16:00
喫茶のご予約はこちら
https://airrsv.net/houseofflavours/calendar
◇バス:JR鎌倉駅東口より京急バス6番「鎌倉山」行「見晴」下車
◇タクシー:鎌倉駅西口、大船駅東口、藤沢駅南口いずれかより

Author 蜂谷 雅彦(Masahiko Hachiya)
大人のためのコンフォートで上質なファッションを提案するブランド「HACHIYA」デザイナー。グッチ、フェンディ等のMDディレクター、アレキサンダー・マックイーンの日本社長等を歴任し、イタリアで長く暮らす。現在は鎌倉在住。

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