第2回 秋のローファー物語
秋めいてきたので、この季節向きの靴を履こうとグリーンのビットローファーを引っ張り出しました。
家の中では気付きませんでしたが、表の明かりで見てみるとなんともすすけた表情。
これはいかんと、アポ前に少し時間があったので、恵比寿の靴修理屋さんへ行くべく途中下車。
イケメンのお兄さんは手際良くハゲた部分に同じグリーンの靴クリームを塗り込んでくれました。
10分ほどできれいに仕上がりこれでひと安心。
きれいになったローファーを見ていたら、先日実家に帰った時、40年ぶりに再会した幼なじみとの会話を思い出しました。
ふと彼の足元に目をやると、きれいに磨き上げたこげ茶のコインローファーが光っていました。
「きれいなローファー履いてるね」と褒めると、彼は
「これハッチに勧められて買ったやつだよ」「おしゃれに無頓着な俺が買って損しない革靴を聞いたら、これを買えって言われて」
「……ていうことは、40年前に買った靴ってこと……?」
「そうだよ。だって大事に履けば一生履けるって言われたから、何度かヒール変えたけど磨いて履いてるよ」
と彼は平然と言いました。
彼の履いていた靴はどう見ても新品同然なのです。
「その状態を保っていること」への驚きと、
「二十歳やそこらで何を根拠にそんな事を言い放ったのか」という恥ずかしさと、
「40年経った今でもその時の自分のファッションテイストが同じ」であることの喜びと、
「なんならそのアドバイスもまんざらではなかった」
という奢った気持ちが入り混じり、妙な顔つきになっていたでしょうが、何よりも
「友人がそんな私の戯言を信じて40年間大事に履いていてくれたこと」にとても感動しました。
洋服好きが転じて入ったこの仕事ですが、長年かけてもその確信にたどり着けずにもがいている自分に、消防隊員の彼が、秋の澄んだ風を運んでくれたことは言うまでもありません。
Author 蜂谷 雅彦(Masahiko Hachiya)
大人のためのコンフォートで上質なファッションを提案するブランド「HACHIYA」デザイナー。グッチ、フェンディ等のMDディレクター、アレキサンダー・マックイーンの日本社長等を歴任し、イタリアで長く暮らす。現在は鎌倉在住。
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